んな小娘だけれども、油断がならないね、支倉の旦那が手を出したらしいんだよ。男ってみんなそう云う者さ。それがもとで一旦宿へ下げられたんだがね、まあそんな事で子供ながらも世の中が嫌になり家出したんだろうさ」
「可哀そうですね」
「可哀そうだと思うかね」
「思いますね」
「ふん、口先ばかりだろう。男なんてものはそんな事を平気で仕でかして置いて、直ぐケロリと忘れて終《しま》うんだから」
「そんな事はありませんよ。おかみさん」
「そう、岸本さんはそんな事はないかも知れないね」
「それで何ですか、おかみさん」
 岸本はお篠の言葉をはぐらかしながら、
「支倉さんはどこに居るか分らないのですか」
「分らないの。尤も主人は知ってるかも知れない。手紙のやり取りなどして、いろ/\頼まれるらしいから」
「おかみさん、そんな悪い人ならそう云う風に隠まうのは好い事じゃありませんね」
「私もそうは思っているがね、之も浮世の義理で仕方がないのさ」
「義理って、そんな大切なもんですか」
「お前さんなどは未だ若いから、そんな事は分らないのも無理はないが、義理と云うものは辛いものさ」
「そんなに度々手紙が来るのなら、どこに
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