てごわ》いから気をつけなければならないよ。根岸でさえ手を焼いているのだから」
「承知しました。あなた方の方はどうなんです」
「さっぱり手懸りがないんだ」
 石子――読者諸君も既にお察しの通り、浅田写真館に忍び寄った曲者は石子刑事だった。中から出て来たのは即ち、岸本清一郎青年である――は口惜しそうに云った。
「いつでもヘマ許《ばか》りさ。荷物を担ぎ込んだ所を突き留て飛び込むと、本人がいる所か、ホンの荷物の中置所にしたに過ぎないのだ。そうやって我々の注意を他へ向けて細君に呼び出しをかけているんだからね。所がそいつを看破って、密会場所を突き止た根岸が亦、いつの間にやら彼に逃げられて、寒空に中野の教会の外で五時間も立たされたと云う始末なんだ」
 二人は尚もボソ/\と打合せをした後、そっと左右に別れたのであった。

「岸本、ちょっと」
 浅田写真館主は気むずかしい顔をして呼んだ。
「はい」
 岸本は彼の前に畏《かしこま》った。
「わしはちょっと出掛けるからね。この焼増の分と、それから之を台紙に張るんだ。ロールを旨くやらなければいかんぞ」
「はい、承知しました。今日の現像はどういたしましょう」

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