振払って表へ飛出すと、折柄の夕暗にまぎれていずくともなく消え失せた。


          素人探偵

 麻布一之橋から白金台の方へ這入って行く、細々《こま/″\》とした店舗《みせ》が目白押しに軒を並べている狭苦しい通りから、少し横丁に這入った三光町の一角に、町相応の古ぼけた写真館が建っていた。
 余寒の氷が去りやらぬ二月半の夜更け、空はカラリと晴れて蒼白い星が所在なげに瞬いていたが、物蔭は一寸先も見えない闇だった。写真館の表は軍装いかめしい将軍の大型の写真と、数年前に流行《はや》った服装の芸者らしい写真と、その外に二、三枚の写真を飾った埃ぽい飾窓に、申訳につけられた暗い電燈が、ボンヤリ入口を照らしていた。
 その入口の浅田写真館とかゝれた看板を見上げながら、一人の怪しげな男が暫くじっと佇んでいたが、中へ這入りもせず、そっと横の路次から手探りで裏口の方へ廻って行った。
 裏口へ廻った怪しい男は木戸から洩れる燈火《あかり》を頼りに、そっと忍寄って、コツ/\と戸を叩き出した。
 さっと一条の白光線が滝のように流れて、開いた木戸から一人の男が飛出した。
 木戸が再び閉ると一瞬照し出されたゴ
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