女中でなくて、四十近い品のある奥さん風の女だった。
「あの、支倉さんのお使いですか」
彼女は腑に落ちないような顔で石子を仰ぎ見た。
「はい、そうです」
「荷物を取りにお出《いで》たのですか」
意外な言葉である。流石の石子も鳥渡《ちょっと》二の句がつげなかった。
「え、荷物を取りに?」
「そうじゃないんですか」
奥さんは後悔したように云った。
「さっき支倉さんから荷物が一車来ましてね、いずれ頂きに上るから預っといて呉れと云う事でしたから、もう取りに見えたのかと思いましたのですが」
「じゃ、支倉さんは居られないのですね」
石子は落胆《がっかり》した。
「はい、見えては居りません」
「支倉さんに是非お目にかゝりたいのですがね。今どちらにお出でゞしょうか」
「さあ、それは手前共には分りませんが、お宅の方でお聞き下さいましたら」
「お宅で伺って、こっちへ来たのですがね、鳥渡お待ち下さい」
石子は外に立っている渡辺を呼びかけた。
「君、支倉さんは居ないんだって」
「そんな筈はないがね」
渡辺はのっそり這入って来た。彼は奥さんに軽く頭を下げながら、
「さっき荷物が来たでしょう」
「はい」
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