るような事を云うのでいら/\していたのだった。
根岸刑事はジロリと渡辺を見たが、何にも云わなかった。
石子、渡辺両刑事は五、六人の応援を得て、飯倉一丁目を目指して繰出した。
目的の家はT字路の一角に建った格子造りの二階家だった。裏口に二人、辻々の要所に一人宛同僚を立たせて、表口から石子、渡辺が這入る事に手筈を極めた。
日ざしの様子ではもう四時近いと思われた。寒《かん》は二、三日前に明けたけれども、朝から底冷えのするような寒さだった。日当りの悪い高山の家の前には、子供の悪戯であろう、溝石の上に溝から引上げて打ちつけた厚氷が二つ三つに砕けて散って居た。
ふと上を仰ぐと二階の半面には鈍い西日がさして、屋根の庇に夏から置き忘られたのだろう、古びた風鈴が寒そうに吊下っていた。
「ご免下さい」
石子は声をかけた。
「はい」
奥から出て来たのは十五六の女中風の小娘だった。
「芝の三光町から来ましたが、支倉の旦那に一寸お目にかゝりたいのです」
「はい」
小娘はこっちの名も聞かずに引込んで行った。石子はしめたと思った。
返辞いかにと片唾《かたず》を飲んでいる石子刑事の前へ現われたのは
前へ
次へ
全430ページ中65ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング