主任は少し機嫌を損じた。
「愚図々々していると又逃げて終《しま》うよ」
「そうです」
 石子は勢いよく云った。
「運んだ荷物は中々少くないのですから、当分潜伏する積りと見て好いでしょう。大丈夫いますよ。一時も早く捕えたいものです」
「うん、それも宜かろう」
 根岸は皮肉な苦笑を浮かべながら、
「然しね、君、自然に逃げた鳥は又巣に戻って来るが、威かした鳥はもう帰って来ないよ」
「謎みたいな事を云うね」
 石子は根岸の皮肉な笑に報いるべくニヤリとした。
「謎じゃないさ。僕はどうもその高山と云う家へ踏込む事は賛成出来ないのだ」
「どうして?」
「支倉にしては手際が悪いからね」
「何だって」
 石子は聞咎めた。
「そうすると詰り君は、支倉は僕達に潜伏場所を突留められる程ヘマではない。云い変えれば僕達には本当の潜伏場所などは突留められないと云うのだね」
「そう曲解して貰っては困る」
 根岸刑事は持前の調子で冷然と云った。
「兎に角僕の考え通りやってみよう」
「そうし給え」
 横合から渡辺刑事が吐き出すように云った。彼はさっきから、自分が折角苦心して探し出した飯倉一丁目の家に、根岸刑事がケチをつけ
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