奥さんは警戒するように眼を光らした。
「じゃ、支倉がいないと云う筈がない」
渡辺は語調を強めた。
「いゝえ、私共では荷物をお預りした切りです。一体あなた方は何ですか」
奥さんも少し景色ばんだ。
「いえ、何、ちょっと支倉さんに用があるのですがね」
石子は渡辺の方を向いて、
「君、いなければ仕方がないさ。出直そうじゃないか」
渡辺は首を振った。彼は自分がこの家を突留た為でもあろうか、支倉がこの家に潜んでいる事を深く信じているのだった。
「じゃ何でしょう奥さん」
渡辺は尚も鋭く云った。
「支倉は此頃お宅へ訪ねて来たでしょう」
「はい、二、三日前に一度」
「それからずっといるでしょう」
勢いづいた渡辺は追究した。
「いゝえ」
奥さんは不快そうな顔をした。
「一体あなたはどなたですか」
「僕は刑事です」
「えっ!」
奥さんは顔色を変えた。
「奥さん、支倉は今警察のお尋ね者なんです。あれを匿《かく》まうような事があっては不為ですぞ」
「何も匿まいはいたしません」
彼女はきっぱり云ったが、何となくオド/\していた。
「君」
渡辺は石子の方を振向いた。
「兎に角荷物を見せて貰お
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