もそんなのは居ないようだね」
 一人が考え/\答えた。
 石子刑事の御馳走と世間馴れた話振に、すっかり打解けた運送店の人夫は知っているだけの事は残らず話し、背の低い運送人についても考えて呉れたが、結局誰も知らない事になって、石子刑事は何一つ得る所なくその運送店を出ねばならなかった。
 石子刑事はそれから丹念に運送店を一軒々々訪ね歩いたが、正午近くまで何の効果もなかった。
 目黒駅から五反田駅の方にかけて尋ね歩いていた渡辺刑事も正午頃まで無駄足をしていた。
 が、この度は運は渡辺刑事にあった。
 彼が落胆しながら重い足を引摺って五反田の方から引返して来ると、或る狭苦しい横丁に、うっかりしていると見落すような一軒の小さい運送店があった。彼は薄暗い店前《みせさき》を覗いた。
「お宅じゃなかったですかね、背の低いがっしりした若い者のいたのは」
 奥から主人らしい男が仏頂面をして出て来て、胡散臭《うさんくさ》そうに渡辺刑事を見た。
「兼吉の事ですか」
「そう/\、兼吉さんでしたね」
「何かご用なんですか」
「実はね」
 渡辺刑事は声を潜めた。
「支倉さんから頼まれて来たんですが」
「あゝそうです
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