と、ジロ/\と石子を眺めた。
「宅じゃありませんね」
 やがて中の一人がブッキラ棒に答えた。
「この辺の運送店で背の低い、ずんぐり肥えた人のいる所はありませんか」
「知りませんね」
 対手は相変らず素気なく答えた。人夫達は荷造りの手を止めると、思い/\に腰を下して、外方《そと》を向きながら煙草を吸い出した。
「分らないかね」
 石子は落胆《がっかり》したように、
「困ったなあ、少し調べたい事があるんだがね。まあ一服さして貰おうか」
 独言のように云いながら、彼は土間の一隅に腰を下した。人夫達は、敵意のある眼で彼を盗み見た。
「少いけれどもね、之で一つお茶菓子でも買って呉れないか」
 石子刑事は一円紙幣を出した。薄給の刑事で限られた軽少な手当から、之だけの金を出すのは辛かったが、彼等に親しく口を開かせるのには有効な方法で、彼は度々この方法で成功したのだった。
 車座となって番茶の出がらしを啜りながら、石子の御馳走の餠菓子を撮《つま》んで雑談に耽っているうちに彼等はだん/\打解けて来た。

「背の低い肥った運送人、どうも知りませんね。お前どうだい」
 人夫の一人は云った。
「この辺にはどう
前へ 次へ
全430ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング