で、病院初め心当りは皆訪ねたけれども、どこへも立寄った形跡がないと云うのです」
 それから小林氏の方でも手を分けて、訪ね廻ったが、一向手懸りがない。無論置手紙もないし、はがき一本寄越して来ない。警察へも捜索願を出したが、杳《よう》として消息がないのだった。
「死んだものと諦めているのです」
 小林氏は眼を瞬きながら、
「子供心にも恥しいとでも思いましたか、投身でもしたのでしょう」
「そのお知合と云うのはどう云う関係なんですか」
「貞を支倉へ世話をして呉れた人でしてね。貞が治るまでの費用は支倉の方で出すと云う事になっていたので、中に這入って貞を預かって呉れたのでした」
 小林氏の話振が陰気なのと、ニョッキリ出た犬歯が何となく容貌を奇怪に見せるので、暗い電燈が段々暗くなるような気がするのだったが、石子刑事は尚も熱心に問い質《たゞ》した。
「立入って聞きますが、その辱しめられた事や病気をうつされた事などは当人からお聞きでしたか」
「後には本人にも云わせましたが、初めに気づきましたのは私の弟なのです。こいつは誠に手のつけられない奴で、酒から身を持ち崩して今は無頼漢《ごろつき》同様になって居りま
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