す。誠に重々恥しい事ばかりです。こいつが、無論私の所へも毎度無心に参りますが、貞の支倉に居た時分には時々その方へも無心に参ったのです。で、蛇《じゃ》の道は蛇《へび》とやら云って、悪い奴ですから悪い事には直ぐ気がつきます。貞を威しすかしてすっかり様子を聞いたのです。それから奴は度々支倉さんの所へ出かけて、無心を吹きかけたようでした」
 支倉を強請《ゆす》って金にするとは上には上があるものだと感心しながら、石子刑事は膝を進めた。
「その弟御さんと云うのは東京にお出《いで》ですか」
「えゝ、神田に居るのですが」
 困った事を耳に入れたと云う風で、小林氏は後を濁した。
「御住所を教えて頂けませんでしょうか」
 刑事の依頼に今更取消す訳にも行かず、呉々《くれ/″\》も弟の不利益にならないようにと頼んだ末、小林氏は住所を委《くわ》しく話した。石子はこれを書留めて家を辞した。いつの間にやら大分夜が更けていた。
 翌朝石子刑事は神田三崎町に小林定次郎を訪ねた。
 変にゴミ/\したような感じのする横丁を這入って行くと、軒の傾きかけたような車宿《くるまやど》があった。
 そこの二階の一室に彼はいたのだった
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