「所が」
 小林氏は一向そんな事に気づかないで相変らず異様な犬歯をチラつかせながら、
「全く以て思いもかけぬ事でした。尤も娘は身体は大きい方でしたが、何を云うにも十六と云う年ですし、支倉さんは宣教師と云う教職に居られるのですし、間違いがあるなどとは夢にも思っていませんでした。それが」
 小林氏はこゝで鳥渡《ちょっと》言葉を切って、云い憎そうにした。
「そんな風の事を鳥渡聞きました」
 石子刑事はやはりそうだったのかと思いながら、小林氏に気易く話させるように、態《わざ》と事もなげに云ったのだった。
「もう、お聞きでしたか。お恥かしい次第です」
 小林氏の話によると貞子は支倉の為に暴力をもって辱かしめられたのだった。そして忌まわしい病気を感染された為に働く事が出来なくなり、暇を貰って知合の家から病院通いをしなければならなかったのだった。流石《さすが》の石子も只《たゞ》あきれて聞く許《ばか》りだった。
「三年前の一月末でした。夜遅く貞を預けてあった知り合の家から使がありまして、貞はこっちへ来てないかと云うのです。だん/\わけを聞きますと、朝いつもの通り病院へ行くと云って出たきり帰って来ないの
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