徒に馬鹿にされているのですよ」
「どこだね、住居は」
「江戸川橋の近所です。確か水道端町だと思いました」
「その娘さんは何病だったか知らないかい」
「それでね、妙な噂があるのですよ」
 岸本は声をひそめながら、
「花柳病らしいと云うのです」
「ふーン、十六の娘がね」
 石子は首を傾けた。
「不良中学生なんて云うものはどこから聞出して来るか、いろんな事を知ってるものですよ。それに先生の娘さんがシャンだなんて騒いでいたのでしょう。支倉へ行ってからも行動は大小となく探り出して来るのですよ」
 岸本の噂の聞覚えや、推測によるとその娘は支倉に犯されて忌まわしい病気になったのではないかと云うのだった。
「同級生にひどい奴がありましてね、そいつはある名士の息子なんですが、少し低能で二十いくつかで四年級だったのです。そいつが時間中に小林先生に娘さんの御病気は何ですかと大きな声で聞きましてね、その時、小林先生の今にも泣き出しそうに口を歪めた、何とも名状すべからざる気の毒な顔は今でも覚えています」
「ふーん、いや好《い》い事を知らして呉れた」
 石子刑事は再び腕を組んで、深く考えに陥ち込んだ。
 岸本青年
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