は所在なさに細君に話しかけた。
「奥さん、何か面白い話はありませんか」
「えゝ、別にありませんね。私もね、今の話の支倉と云う人から威《おど》かされているんですよ」
「えっ、どうして?」
「始中終《しょっちゅう》脅迫状みたいなものが来るんですよ」
 きみ子は眉をひそめながら、
「今にお前の宅へお礼に行くから待って居ろなんて、そりゃ凄い事が書いてあるんです」
「へえー、ひどい奴だなあ」
 岸本は呆れたように云った。
「ですから私毎日ビク/\してるのよ」
 きみ子は淋しそうな顔をした。
 石子は二人の話声が耳に這入らないようにじっと考え込んでいた。
 三年前の女中の失踪。誘拐されたか、自殺したか、それとも殺されたか、いずれにしても死んだのなら死体が出そうなものだ。親の身として似寄りの死体が出たら、きっと見に行った事であろう。死体の出ないのは未だ生きているのか。
 疑問の怪物支倉の女中の謎の失踪。こりゃ愈※[#二の字点、1−2−22]むずかしくなって来たぞ。
 石子刑事は思わずうーむと唸った。

 岸本から三年前に支倉方の女中が行方不明になった事を聞いた翌晩、石子刑事は女中の父親である城北中学
前へ 次へ
全430ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング