岸本も委しい事は知らなかったが、何でもその貞子と云う娘が、支倉に奉公中病気になって、その為に暇を貰って、知合の宅《うち》から毎日病院に通っていたが、ある朝いつものように病院に行くと云って家を出たまゝ帰らなかった。
 それからもう三年経つが、未だに行方不明というのだった。
「もしかすると支倉がどうかしたんじゃないでしょうか」
 岸本は不安そうに云った。

 可憐な娘が行方不明になったのは支倉が誘拐でもしたのではないかと云う岸本の言葉に、石子刑事は、
「さあ」
 と云って腕を組んだ。
 支倉の家に女中をしているうちに行方不明にでもなったのなら格別、病気の為に暇を取って帰ってからの事だとすると、濫《みだ》りに支倉を疑う訳には行かない。然し今までの支倉の不敵な行動と、いろ/\疑わしい前身を考え合せて見ると、女中の家出と云う一見ありふれた事件ながら、直に無関係と極めて終う訳にも行かない。女中の病気は何か、どうして病気になったか。家出当時の状況など一応取調べて見ねばなるまい。
 石子刑事は腕組を解いて顔を上げた。
「その小林と云う先生は今でも学校にいるのかい」
「えゝ、相変らず動植物を受持って、生
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