はや大弱りなのだ。実に大胆不敵で悪智恵の勝れた奴でね。こゝだけの話だが、実はとても俺の手に合いそうもないのだよ」
「そんな事はありますまいが」
岸本はニコリと笑ったが、急に真面目になって、
「本当にそんな悪い奴なのですか」
「悪いにも何にも、大悪党だ」
「そうですか。もしそうだとすると少し話があるのですが」
「支倉についてかね」
「そうです」
「どう云う話なんだね」
石子は思わず首を前へ突き出した。
「御承知の通り私は四年生まで城北中学にいましたが、小林と云う理科の先生がありましてね、基督教信者でしたが、娘さんの確《たしか》貞子と云いましたが、それを行儀見習いに支倉の所へ女中に出したのです。三年前の事ですが、娘さんは十六位でした。私も未だ不良だった時代ですから、トテシャンだとか、いや何だとか云って騒いでは、不良仲間と一緒に手紙を送ったりして、先生を心配さしたものです。内気な可愛い娘さんでしたよ」
岸本は鳥渡顔を赤らめたが、すぐ真顔になって、
「その娘さんが間もなく家出して、未だに行方不明なのです」
「え、その家出と云うのも支倉の家をかい」
「いゝえ、そうではないらしいのです」
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