は釣り上り、見開いた眼は悲痛に輝き、きっと結んだ唇をブル/\顫わせて、呻くような太い息を吐いた姿は正に怒れる閻王の如く、気の弱い者なら眼を閉じて怖じ恐れて口を利く事さえ出来なかったであろうと云う。之は後に能勢氏が親しい友に語った所だ。
静子は何故に彼から背き去ったか。温良貞淑なりし彼女を誘惑し去ったものは何ぞ。筆者はその後の彼女の消息は杳として知らないけれども、誰か起って彼女を責めるものがあろうか。両親の勧むるまゝに前科ある人とは知らで嫁した夫は、一子を儲けると忽ち拘引せられて、忌わしい殺人罪で死刑を宣告せられた。彼は冤罪を叫んで控訴したが、家には一銭の貯えもない、空閨数年いかでか守り卒《お》えるべき。獄中に呻吟する夫を振り捨て、他に頼るべき人を求めたのは、薄情と云わば云え、又止むを得ない事ではなかろうか。筆者は薄幸なりし彼女の半生に一掬《いっきく》の涙を濺《そゝ》ぐに止《とゞ》まって、敢て彼女を責めようとはせぬ。
さわれ、取残された獄中の支倉は、唯一の頼みの綱を断ち切られて前途に全く希望なき身となった。深夜幾度か獄窓に凭《もた》れて男泣きに泣いた事であろう。
彼は妻の責め問われ
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