るのに忍びずして、遂に神楽坂署で自白した。妻子の将来は心配するなと云った、署員の言葉を深く信じたのだと云う。そうして妻子の生活の資にと思った家屋が差押えられて、彼等が忽ち路頭に迷わねばならぬ事を知った時が、思えば悪化の最初であった。今妻に見放されて、一朝にして恩愛の絆は断たれ、僅に能勢弁護士、木藤大尉の厚き同情があるとは云え、孤立無援、天涯孤客となった。而も自分は捕われの身である。彼は生きながらの呪いの魔となるより途はなかったのだ。
 彼の呪いの目標は何と云っても神楽坂署長庄司だった。彼は物凄い脅迫の手紙を絶え間なしに送った。庄司署長の手許に届いたものだけで前後七十五本を算し、その外いかにして探ったか、署長の親類姻戚関係を辿り、罵詈《ばり》を極め、果は署長の出身小学校、中学校、戸籍役場より、其他関係しているあらゆる会にまで手を延ばし、甚だしきは署長夫人の出身女学校の校長にまで魔手を及ぼした。夫人の実家へ舞い込む頻々たる脅迫状に、当時奉公中の下女が顫え上って暇を乞うて逃げ出したと云う事もあった。
 監獄内からの発信は典獄に於て一々点検して、不穏なものは発信せしめない事になっていたのだが、
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