々ならぬものであった。総括的に云うと、彼女は結婚後間もなく儲けた一子を中にして、夫と共に可成幸福な道を歩む事が出来たのだった。
それが長い七年の後、思いがけなくも一朝にして潰《つい》えて終《しま》ったのだった。
夫が彼女と結婚する以前に既に前科を四犯も重ねていようとは夢にも思っていない事だった。基督《キリスト》教の信者であると云うので、深い調査もしなかったのではあるが、又仮令前科があっても悔改めた上は立派な人格に再生する事は十分出来る事ではあるけれども、神楽坂署で夫の前科を云い立てられた時には、彼女は自分の身体を裸にして曝《さら》されたよりも、浅間しく感ぜられたのだった。
彼女は結婚後夫の品行が必ずしも正しくないと云う事は直ぐ悟った。勉学の都合から暫く別居していた時や、又彼女が郷里に帰っていた時などに、一、二の女と兎かくの噂のあった事を聞いていた。殊に夫が忌わしい病気に罹った上、それを年端も行かない女中の小林貞に感染させた事を知った時には、よしそれが女中の叔父の云うように手籠めにしたのではないとしても、どんなに情なく感じた事か。然し彼女はこうした夫の不始末にも、彼女が一部の責任を
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