車其の日自分乗車せざりし電車、開通しあるとは意外、まるで夢のようです。(中略)電車は自分に取っての致命傷にや」
兎に角、この電車問題では支倉の策戦が破れて、一敗地に塗《まみ》れたものと云わねばならぬ。
だが、支倉も子供ではない、いや/\それどころか人並以上に奸智に長けた男である。電気局に問合せれば立どころに分るような問題を、どうして、当時未だ電車が無かった筈だと申立てたのか。殊更に分り切った事を申立てゝ、あわよくば判官を瞞着し、拙く行っても審理を遅延させる事が出来ると考えたのか。
いかに彼でもこんな子供|誑《だま》しのような事を企てはしまい。思うに彼が電車未開通の事を云い出したのは、突発的に口から出委《でまか》せに云ったのではなくて、どうかして神楽坂署に於ける自白の効力を失わしめようと思って、数日獄窓裡に沈思黙考して、考え出したものであろう。
彼はあれこれと思い巡らした末、ふと当時電車は未だ開通していなかったのではないかと思い当ったのだ。
人は何か重大な出来事のなかった限り四年前の、而も実際の日とものゝ十日も違わぬ日に、電車が開通したかしなかったかと云うような事は思い出せる
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