に打たれて終った。
 彼はこの時の事をこう書いている。
[#ここから2字下げ]
「当時の署長室の三十分ばかりの光景は、我ら数人の熟視した事であって、其厳粛荘重の有様と、我ら一同の満足とは今に至るまで忘れかぬる美しい記憶である」
[#ここで字下げ終わり]
 神戸牧師は、支倉の立派な態度に打たれて、もはや迷惑も何も忘れておもわず彼の方を向いて云った。
「頼みたい事があるなら遠慮なく云い給え。何なりとも屹度《きっと》して上げようから」
 支倉は牧師の方を振り向いた。彼の眼には新たなる感謝の涙が光っていた。
「有難うございます。御恩の程は忘れませぬ。もう何もお頼み申す事はありませぬ。この上は天国に生れ代って、皆様の御恩義に報います」
 支倉の美しい告白の場面は之で終った。
 彼は直ちに検事局に送られる事になった。
 こゝに遺憾に堪えなかったのは、当時の庄司署長が年少気鋭にしてよくかの如き大事件を剔抉《てっけつ》し得たが、惜むらくは未だ経験に乏しかったので、彼の自白に基いて有力たる証拠を蒐集する事をしないで、早くも検事局へ送った事であった。
 然し、それは無理もない事であった。と云うのは支倉の自
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