て呉れ」
「おゝ、ほんにそうでございました。そう云う思し召なら頂戴いたしましょう。私は少しも欲しくありませんが、仰せの通り死んだ貞の墓を建てゝ、後《あと》懇《ねんごろ》に弔ってやりましょう」
「あゝ――っ」
支倉はとう/\男泣きに泣き崩れた。
「あゝ、わしはもう何にもいらぬ。もう何も思い残す所はない。署長さんの手許にある金は全部お前に遣るから、後々の事を宜しく頼むぞ」
一座は一種云うべからざる圧迫を感じた。
戸外では罪ある者も罪なき者も折柄の春光を浴びて、嬉々として自由に足どり軽く歩き廻っている。
然るにこの狭苦しい冷たい一室では、夫は恐ろしい罪名の許に背後に縛《いましめ》の縄を打たれて、悔悟の涙に咽び、妻は褥《しとね》さえない板敷に膝を揃えて坐ったまゝ、不遇な運命に泣いているのだ。免るべからざる人間生活の裏面にまざ/\と直面して、誰か何の感動を受ける事なしにこの有様を見る事が出来ようか。
両手を膝の上に置いて、すゝり上げる声を噛みしめながら、肩を激しくふるわせて、悲嘆に暮れているいじらしい静子の姿に、流石の庄司署長も思わず眼をしばたゝくのだった。
神戸牧師はすっかり厳粛さ
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