御贔屓《ごひいき》になっていますから止むを得ずお引受したのです」
彼の答えは澱《よど》みがなかった。石子はそっと渡辺の顔を見た。
確に支倉に関係ある男と睨んで深夜に取押えた怪漢が、思いがけなく附近の写真館の主人だったので、石子刑事は落胆して終《しま》った。それは彼の返答に曖昧な所がなく、警察署へ同行を求める口実もないので、そのまゝ帰すより仕方がなかった。
石子は渡辺刑事の顔を覗ったが、渡辺にも格別好い智恵がないらしかった。
「どうも失礼、よく分りました」
石子刑事は写真師に云った。口惜しそうな調子は隠す事が出来なかった。
写真師は別に嬉しそうでもなく、腹を立てたと云うでもなく、黙って一礼するとさっさと歩いて行った。
渡辺刑事は如才なくそっと彼の跡を追った。
暫くすると刑事は帰って来た。
「確に浅田写真館の中へ這入ったよ」
渡辺は茫然《ぼんやり》している石子にそう云った。
二人はもう之以上見張りを続ける勇気がなくなった。夜が明けるのを待兼ねて二人はそれ/″\宿所へ引上げた。
石子刑事が一眠りして正午近く神楽坂署へ出ると、書留速達の分厚の封筒を受取った。それは又しても見
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