ず声をかけた。
怪しい男は吃驚《びっくり》して飛上った。もう少しで風呂敷包を取り落す所だった。
「いや心配しないで宜しい。僕達は刑事なんだ。鳥渡聞きたい事があるんだがね」
石子は静かに云った。
「はあ」
彼は二人の刑事の顔を見くらべながらおど/\と答えた。
「君の住所と名前を云って呉れ給え」
「白金三光町二十六番地、浅田順一です」
「職業は?」
「写真師です」
「何、写真師?」
深夜の支倉邸に出入した怪しい男は石子刑事の訊問に平然と答えた。
「そうです。ついこの先の写真館です」
「ふむ、で、何の用でこの夜更にこゝへ来たのかね」
石子刑事は意気込んで訊ねた。
「奥さんの写真の焼増が出来上ったので持って来たのです」
「その風呂敷包はなんだね」
「之ですか之は見本帳です」
彼は進んで風呂敷包を拡げて見せた。彼の云った通り大形の帳面でいろ/\の写真が張りつけてあった。
「それにしてもこんな夜更けに来たのはどう云う訳だ。第一ここの主人は留守ではないか」
「御主人のことは知りませんが、今朝奥さんが急に焼増をたのまれまして、どんなに遅くても今日中に届けて呉れと云われましたので、以前から
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