覚えのある支倉からの手紙だった。石子はちょっと舌打しながら封を切った。
手紙には矢張以前のように嘲笑的言辞で充ちていた。が、三度目ではあるし、始めての時程は腹も立てなかった。
が、翌朝再び支倉から分厚の手紙を受取った時には流石の石子刑事は彼の執拗さには呆れざるを得なかった。手紙は無論その都度消印を調べるのだけれども、一つ一つ差出局が違っていて、浅草だったり神田だったり、麹町だったりしたので、何の手懸りにもならなかった。
手紙には相変らず嘲弄的な事が書並《かきつら》ねてあった。石子刑事はふゝんと嘲笑い返しながら読んでいたが、次の一句に突当ると、彼の忿懣《ふんまん》はその極に達した。
「青き猟師よ。汝の如き未熟の腕にて余の如き大鹿がどうして打とめ得られようぞ。万一打留め得られたら、余は汝に金十万円を与えよう」
重ね/″\の侮辱に若い石子刑事は、もう我慢がならなかった。彼は果して支倉の手に這入るものやら、又そんな事が捜索上無益か有害かそんな事を考えている余裕もなく、支倉の留守宅へ宛て返事を書いた。
「手紙見た。丁度金の欲しい所であるから、折角の十万円頂戴する事にしよう。忘れずに用意
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