自分よりは七つ八つ若いと思われる署長を見上げた。

 後に支倉が獄中で書いた日記を見ると、この神楽坂署の取調を想起して、
「十二時の鐘がゴーンと鳴ると、署長が亡者を責む地獄の鬼のように、ノッソリと現われる」
 と書いてあった。
 この事について神楽坂署が裁判所へ出した報告には、
「取調の都合上時に夜に到るまで訊問を続行し、十時過ぎに至れる事あり」
 とあった。そのいずれが正しいか知る由もないが、兎に角、時の神楽坂署では夜遅くまで訊問を続行した事はあったらしい。支倉が、
「十二時の鐘がゴーンと鳴ると」
 云々と書いたのは多少修辞上の言葉で、必ずしも署長が鐘の音を合図に現われたものではないと思われる。支倉が果して殺人罪を犯していたかどうか。それは神聖なる裁判に待つよりないが、彼が他に悪事を働いている事は疑う余地がない。傲慢な彼に対して取調べが峻厳を極めたのも止むを得ないであろう。
 さて、署長の訊問振りはいかに。

「おい君、貞ちゅう女はどこに隠したんだ。未だ考えがつかんかね」
 庄司署長は、赤味のある丸顔に強度の近眼鏡の下から割に小さい眼をしばたゝかせながら、迫らず焦らず悠然と訊問を始め
前へ 次へ
全430ページ中224ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング