のは更に家を出入するものがなかった。
「ねえ、石子君、つく/″\嫌になるね」
三晩目に渡辺刑事が述懐した。
「何、三晩やそこいらの徹夜位はなんでもないさ。僕は苦労を云うのじゃない。三晩も寝ないで他人の家を恰《まる》で犬のように覗っていると云う事が果して意義のある事だろうか。探偵なんて商売はつく/″\嫌になって終《しま》う」
「馬鹿な事を云っちゃいけないぜ」
凍えた両手を一生懸命に擦り合せながら石子刑事が答えた。
「僕達は何も私利私慾の為にやっているのではないぜ。公益の為にやっているのだ。僕達は社会の安寧を保つ為に貴い犠牲を払っているのだぜ」
「貴い犠牲か? だが世間の奴等はそうは云わないからな。恰《まる》で僕達が愉快で人の裏面を発《あば》くように思っているからな」
「馬鹿な、僕達のような仕事をするものがなかったらどうするのだ、そんな事を云う奴には云わして置くより仕方がないさ」
石子刑事は吐き出すように云ったが、その実、彼も三晩の徹夜の効果のないのには、すっかり気を滅入らしていた。
四日目の朝、石子刑事は署内自分宛書留速達の分厚い封筒を受取った。それは思いがけなく逃走中の支倉喜平
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