》の上にしめていた黒っぽい帯が蛇のようにのたくっていた。瞬間に彼の第六感はしまったと頭の中で叫んだ。
彼は脱兎の如く部屋を飛出すと忽ち階段を駆け上った。八畳と六畳二間続きの南に向いた縁の硝子戸が一枚開いていた。その傍に駆け寄って見ると、下はふか/\した軟かそうな地肌だった。その地肌の上に歴々《あり/\》と大きな足袋裸足の跡と思われる型が、石子刑事を嘲けるように二つ並んでついていた。
嘲笑
刑事は蒼くなって二階から駆け下りると表へ飛出した。只ならぬ彼の様子を見た渡辺刑事は驚いて声をかけた。
「君、どうしたっ!」
「に、逃がしたっ! 君はそっちへ廻って呉れ給え」
二人は右と左に分れて、支倉の家を包囲するように塀について廻った。それから出鱈目《でたらめ》にそこいら中を探し廻ったが、遂に徒労だった。二人は茫然《ぼんやり》して顔を見合した。
「僕が悪かった」
さっきの得意はどこへやら、石子は悄然として云った。
「少しも油断はない積りだったが、やっぱりまだ駄目な所があるんだなあ」
石子は手短に逃がした次第を語った。
「ふん」
聞終った渡辺は感心した。
「中々凄い
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