た。
 静子は手持無沙汰で、一刻も早く彼の帰って呉れる事を念じていた。
「お淋しいでしょう」
 暫くすると浅田が云った。
「はい」
「お子供さんの御病気はいかゞですか」
「有難うございます。病気はもう夙《とう》から好いんでございますけれども――」
 静子は後を濁らした。支倉との間に出来た太市《たいち》という今年六つになる男の子は、少し虚弱な質で、冬になると直ぐ風邪を引いて熱を出したりするので、一月の初めから温かい海岸にいる親切な信者の所へ預けてあった。一月末には迎いに行く事になっていたが、丁度刑事に踏み込まれたりして、迎いに行くのが延々になり、子供にこんな有様を見せたりするのは面白くなかったし、幸い子供も帰りたがらないので、その儘預け切りになっているのだった。
「支倉さんも坊ちゃんに会いたがっていましたよ」
「――――」
 静子は黙ってうつむいた。涙がにじみ出て来た。子供に会いたいのは彼女とても同じ事、一時も早く親子三人団欒して、昔の平和な生活に帰りたかった。もしや子供が今頃父母を慕って泣いていはせぬかと思うと、落着いた気はなかった。一時の心得違いから家を外に隠れ廻っている夫が恨めしか
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