目か四日目に彼宛に来る郵便物を取りに来るのだった。
「恰《まる》で私の宅を郵便の中継所のようにしているので、私も少し腹が立ちましたから断ろうかと思っているのですが、何分三週間の謝礼を前に取っているものですから、期限が来るまで鳥渡《ちょっと》云い出し悪《に》くかったのです」
「松下と云うのは三十六、七の色の真黒な頑丈な男で、眼が大きくて眉の気味の悪い程濃い、ひどく東北訛のある大きな声を出す男でしょう」
「その通りです」
主人の云う所は嘘とは思えぬ。石子は登りつめた絶頂から九仭《きゅうじん》の谷へ落されたように情なくなった。
「今手紙は来ていませんか」
「一昨日《おとゝい》でしたか、すっかり持って行った所です」
あゝ、又しても僅な違いで出し抜かれて終《しま》った。
「実は私はこう云う者です」
石子は名刺を差出しながら、
「松下と云う男は本名を支倉と云って、ある犯罪の嫌疑者なのです。今度もしやって来ましたら引留めて警察へ渡して下さい」
写真館主は名刺を受取って、吃驚したように眼を瞶《みは》りながら答えた。
「承知いたしました」
石子刑事は悄然として外へ出た。
度々の事とて見張をし
前へ
次へ
全430ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング