った。
「何をしているって、こちらに御厄介になっているんでしょう」
「それがね、誠に奇妙な人物なんですよ」
 主人は顔をしかめながら、
「私の所に居る事になっているらしいのですが、滅多に姿を見せないのです」
「はてね、私はずっとこちらにいると思っていたんですが」
 石子は主人の顔色を覗った。
「どうもそう見せかけているらしいのです」
 主人は苦笑いしながら、
「時々郵便が来るのです。そして松下は三日目に一度位それを取りに来るのですよ」
「こちらとはどう云う関係なんですか」
「書生と云う事になっているんですがね」
 主人の答えは益※[#二の字点、1−2−22]意外である。
「つい二週間位前ですかしら、別に誰の紹介もなくブラリとやって来ましてね、写真が研究したいから門下生にして呉れと云うのです。私の所では住込で研究さしていろ/\雑用もさせる代りに少しばかり給料をやるのと、いくらか教授料を取って、通いで研究させるのと二種類あるのです」

 竹内写真館主の話によると、その松下と名乗る男は早速|束脩《そくしゅう》を納めて門下に加わったのだった。所が一向写真を研究しようともせず、前に云った通り三日
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