り、中はしーんとしていた。石子刑事は暫く考えていたが、思い切って静かに階段を上った。
 上は広い洋風の待合室になっていた。中央の卓子《テーブル》の上には厚い表紙の金縁の写真帳がいくつも置かれていた。石子がどうしようかと窓際の長椅子の前に佇んでいると、次の間から一人の書生が現われた。
「いらっしゃいまし」
「今日は、ちょっと松下さんにお目にかゝりたいのですが」
 石子は丁寧に云った。
「松下さんは居られませんですが」
 書生は吃驚したように云った。
「どちらへ行かれましたか」
「松下さんは滅多にこっちへ来ないのですよ」
 書生は怪訝そうな表情で答えた。
「こちらに居られると云う事を聞いて来たのですが」
「はあ、居る事にはなっていますが」
 書生は困ったように、
「鳥渡お待ち下さい」
 そう云って彼は引込んだが、引違いにこの家の主人《あるじ》らしい四十恰好の風采の好い男が出て来た。
「いらっしゃいまし。まあ、お掛け下さいまし」
 彼は愛想よく云った。
「有難うございます」
 石子は軽く頭を下げて答えた。
「松下さんと云うのは一体何をしている人ですか」
 主人は意外な質問を発した。石子は面喰
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