林町はありゃしませんかね、駒込林町と云うのが」
 岸本は云った。
「ふん、然し、駒込はついていなかったんだろう」
「えゝ、町名だけのようでした」

 石子刑事は翌朝本郷に出かけた。
 先ず森川町を目指して行ったのだが、好運にも直ぐ竹内と云う写真館を発見する事が出来た。一高の少し手前を左の方へダラ/\と坂を下った右側だった。
 浅田写真館よりは大分繁昌しているらしく、飾窓《ウインドウ》の写真にも現代風の令嬢や、瀟洒たる青年の半身姿などが飾ってあった。
 石子刑事は暫く飾窓の前に佇んで中の様子を覗った後、一高前の交番に行って刑事の手帳を示し、神楽坂署へ電話をかけた。迂闊《うかつ》に飛び込んで又裏口からでも逃げられては、折角の苦心も水の泡だと思ったので応援を頼んだのである。
 五、六名の応援刑事が到着するのを千秋の思いで待ちかねていた石子は、彼等の姿が見えると、すぐに夫々手配りをして、竹内写真館の入口のドアを押して中へ這入った。流石に異様な緊張の為に息が弾むのだった。
 這入ると直ぐ突当りに幅の広い階段があって、「お写しの方は直ぐに二階に上って下さい」と云う札が目を惹くように立て掛けてあるき
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