解した。
「そこだ。いゝかね、奴さんの位置に立って見る。うっかり残した吸取紙の文字ははっきり分るのはホンの二、三字だけれども、何分東京市内の番地だから少し頭を使えば直ぐ判じられて終《しま》う。さあ困った。そこで一計を案じて、いかにも吸取紙に残った所らしくて、恰《まる》で違った所を考え出して、本当らしく持かけて態《わざ》と敵の手に渡して終う。そうするとよしその計を看破られても元々だし、敵が軽々に信じて終えば、吸取紙の字から推断されるだろう所の本当の場所を知られずにすむ。敵ながら天晴《あっぱれ》の方法じゃないか」
「成程」
岸本は感嘆した。
「奴も中々偉いが、石子さんも偉いなあ」
「感心していちゃいけない」
石子は少し機嫌を直しながら、
「所で吸取紙に残っていたと云う字は何々だっけね」
「『本』之は区の名ですね、本所でなければ本郷ですね、之だけは確です。それから町の名が森だか林だかで始まるのです。その次が川らしいのです。それから何と云うか兎に角何とか内写真館です」
「ふん、本郷だね、本所でなければ。そこで森と、森なら森川町か林なら、はてな、林町と、林町は小石川だったかしら」
「本郷にも
前へ
次へ
全430ページ中104ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング