「どうもすみませんでした」
岸本は詫《あやま》った。
「素人だから仕方がないや」
石子は苦笑した。
「そりゃ、あなた無理ですわ」
きみ子が傍から取りなした。
「そこで吸取紙の方だが、君は何かい、奴が外へ出る、君が二階へ駆け上る、そして一番初めに吸取紙を見たかい」
「いゝえ、抽斗やなんか探してからです」
「屑籠は見なかったかい」
「屑籠と、あゝ、見ました見ました」
「その時に封筒はなかったろう」
「ありませんでした」
岸本は我ながらあきれたと云う顔をした。
「それ見給え。奴は帰ってから封筒を囮に投げ込んだのだ。すると待てよ」
石子はじっと腕を組んだ。岸本は心配そうに石子の顔を見上げた。
暫くすると、石子は元気よく云った。
「そうだ、大分分ったぞ。吸取紙の方は本物なのだ。流石の奴もこいつはうっかりしていて気がつかなかった。所が吸取紙を見られた形跡がある。そうだろう君、吸取紙は位置を動かしたんだろう」
「さあ、外のものは注意して元通り置いたんですが、吸取紙はつい下からおかみさんが上って来たもんですから、あわてゝ机の上へ置きましたので、元の位置より狂ったかも知れません」
岸本は弁
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