もっと委しく判読しようと一生懸命になっていると、おかみさんが上って来たのです。おかみさんを好い工合に胡魔化して下へ降りると、奴が帰って来ましてね、直ぐ二階に上りましたが、暫くすると私を呼んで之から現像を始めるから、そこいらを片付けて置けと云って暗室へ這入ったのです。片付けているうちに屑籠の封筒が眼についたのです」
「君に片付けろと云って暗室へ這入ったのだね」


          徒労

 聞いていた石子は咎めるように云った。
 石子の咎めるような語勢に岸本は吃驚したように答えた。
「そうです」
「そりゃ君、少し考えて見たら分るじゃないか」
 石子は噛みつくように云った。
「いゝかね、ふだん非常に用心深い男がだね、書損いの手紙を屑籠に投げ込んで、それから君に掃除しろと云うのは可笑しいじゃないか、え、第一君を呼んで態※[#二の字点、1−2−22]掃除さすのにだね、屑籠の中に重要な手紙の這入っているのに気がつかないと云う筈がないじゃないか」
「そうでしたね、私はやられたんだ!」
「ふゝん、奴は暗室の中から覗いてたのさ。君の素性を見破るのと、俺に一日暇を潰させるのと、一挙両得と云う訳さ」

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