て呉れている同僚に合す顔がないのだった。
 同僚には手短かに話をして、歯噛みをしながら署へ帰った。
 今度こそはと期待していた根岸刑事は石子の話を聞くと落胆《がっかり》して終《しま》った。
「どうも旨く立廻る奴だなあ」
「全く以て我ながら嫌になるよ」
 石子は面目なげに答えた。
「支倉だけでも好い加減持て余しているのに、浅田なんて一筋縄で行かぬ奴がついているのだからね、骨が折れる訳さ。だけど、それだけ材料があると、愈※[#二の字点、1−2−22]浅田の奴を引っぱたいて本音を吐かせる事が出来るよ。前に一度飴を甞《な》めさして帰してあるのだ。今度こそは少し辛い所を見せてやるぞ」
 根岸は珍しく興奮した。
「然し奴素直に出て来るかしら。何か旨い口実があるかね」
「そうだね、岸本とか云う君の諜者はどう云う契約だったんだ」
「あれは諜者と云う訳じゃないのだ。僕に鳥渡恩を着ている事もあるし、行方不明になっている例の女中も鳥渡知っていると云うような訳で、進んで浅田へ住込んだのだがね、危いと思っていた割合にはよくやったが、結局駄目だったよ。契約なんてむずかしい事はありゃしないさ。只書生に這入ったんだよ
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