で当時喜平の妻子に授与しとる金品及証書は勿論の事、喜平の妻子の着とる衣物までも剥取ると、証人は喜平に強要の上依頼しとるとの事ではないか。
 又この頭蓋骨は品川の菓子屋の娘の頭蓋骨であると云う事を証人が喜平に打明かしての上、当時証人はこの頭蓋骨を支倉の自宅に一時預けてあるとの事ではないか? 一時預けた理由は如何? と頭蓋骨を庄司に因藤裁判長殿はつきつけた上、一々庄司から答弁を聞くようにして、事件の真相を明かにして呉れないのであります。
 因藤裁判長は折角庄司を呼んでも庄司の偽証ばかりを言うがまゝに委せ、何等証拠書類を突きつけ訊問を重ね、事件の真相が分るようにして呉れないのであります。事件の真相をこゝに明かにして頂けん事には、この喜平はこのまゝこゝで絶食死すとも、どなたの裁判にあれ、断然受けません。
 因藤裁判長を忌避した理由は以上のようからです。(中略)
 私は返す/″\、庄司利喜太郎から事件の真相を求めて答弁させて、こゝに明かにして頂けん事に於ては私はこのまゝこゝで絶食死すとも断然裁判は受けないのである」
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 支倉は六月十三日の公判に於て、証人庄司氏の答弁が予期に反して、毫も自己に利益の点がないので、獄中悶々やる方なく、前述の如く裁判長を忌避したが、彼も元より成算があっての事でなく、むしろ自暴自棄的の手段であった。最後の土壇場に来ても尚、跳起きて隙もあらば反噬《はんぜい》しようとする彼の執念には只々舌を巻くの他はない。
 あゝ、在獄七年余、朝に夕に呪い続けて、いかなる手段を尽しても死刑を逃れ、一度浮世に出でんと努力し続けた忍苦執拗、支倉の如き人間が又と世にあろうか。
 因藤裁判長は支倉の忌避の申請を受取ると、直ちに会議を開き合議の上左の決定書を与えた。
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  決定
     被告人 支倉 喜平
右の者に対する窃盗放火詐欺強姦致傷及殺人被告事件につき、右被告人より裁判長判事因藤実に対し、偏頗《へんぱ》の裁判を為す虞れありとして、忌避の申立を為したるも、右申立は訴訟の遅延せしむる目的のみを以て、為したる事明白なるを以て、刑事訴訟法第二十九条第一項に依り、決定する事左の如し。
 主文
本件忌避の申立は之を却下す。
 大正十三年六月二十日
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[#地から4字上げ]裁判長以下署名捺印
 決定書は直に市ヶ谷刑務
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