す、思うように行きません」
 元気な救世軍士官は汗を拭き/\、
「所で今日突然お伺いしましたのは、支倉喜平の事でお願いに出たのですが」
「はあ」
 牧師は暑さで上気した相手の顔を見た。
「私はその、他の用で東京監獄に行きましてね、ふと支倉に呼び留められて、だん/\話を聞いたのですが、あゝ彼の云う事が全部事実だかどうか分りませんが、可哀そうな者だと思われますので、実はお願いに出たのですが、先生一つ何とかして救ってやって頂けませんでしょうか」
「成程そう云う訳でしたか」
 神戸牧師はうなずきながら、
「で、その救ってやると云うのはどうすれば好いのですか」
「そう具体的になると困りますがね」
 木藤大尉は鳥渡《ちょっと》頭を撫でるようにしながら、
「つまり何です。彼を憐んで下すって、彼の利益になるような証言をしてやって頂きたいのです」
「利益な証言と言いますと」
 神戸牧師は飽くまで真面目であった。
「つまり従来のではいけない、彼を庇護する為に事実を曲げろと仰有るのですか」
「いや、それ程までに強い意味ではないのです。先生の証言なるものは要するに心証の問題で、事実は曲げなくても、先生のお考え一つでどうにでも解釈の出来る問題じゃないのでしょうか」
「そうかも知れません」
 牧師はきっぱり云った。
「ですから私は私の解釈を法廷で申述べたのです。尤も私は一旦は拒絶しました。然し既に口外したからには、私の考えとして飽くまで責任を負い、今後変更しようとは思ってはいません」
「ご尤もです。然しもし先生が彼に憐れみを垂れて下されば――」
「鳥渡お待ち下さい」
 神戸牧師は遮《さえ》切った。
「先刻からのお話では、私が何か支倉を憎んでゝもいるように取れますが、もしそう云うお考えだと飛んでもない事で、私は決して彼を憎んでは居りません。十分憐憫の情は持っている積りです。然し宗教家としての私は、法律上の罪人として彼に干渉する事は出来ないと思うのですが。それとも彼は全然冤罪であると云う確証でもお持ちなのでしょうか」
「いや、決してそうじゃないのです。私も彼が悪人であると云う事は十分認めているのです。然し、悪人なればこそ、一層救ってやる必要はないでしょうか」
「悪人を救ってやる事には異議はありませんが、それは宗教の関係している範囲で、法律上の事に及ぼす事は出来ないと思います」
 神戸牧師はいつにな
前へ 次へ
全215ページ中184ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング