決監に入れられていたが、彼が獄中から毎日と云って好い程――実際は月に四、五回だったかも知れないが、牧師にはそれが毎日と思えるのだった――彼に当てゝ手紙を送った。それには極って、
「神戸さん、ほんとうの事を云って下さい。庄司とぐるになって私をいじめないで、ほんとうの事を云って下さい」
 と書いてあった。それも初めのうちは嘆願の調子だったが、それがだん/\悪意があるようになり、果は彼を侮蔑し罵るようになった。神戸牧師は努めて彼の手紙を黙殺しようとしたが、執拗な彼の遣方に終いには腹立しさを感じて、手紙を見るといら/\するようになった。
「又来ましたよ」
 彼の妻も手紙が来る度に眼の色を変えて訴えるようになった。
「関わん、抛とけ」
 牧師は尖った声でこう答える事が多くなった。
 いつまで経っても支倉は恨みの手紙を送る事を止めなかった。
 むしろ益※[#二の字点、1−2−22]激しくなるのだった。
 神戸牧師はこんな事を思い浮べながら、茫然と庭を見つめていると、妻が名刺を持って這入って来た。
「この方が支倉の事でお目にかゝりたいのですって」
 彼女は不安そうに夫の顔を覗った。
 名刺には「救世軍大尉 木藤《きふじ》為蔵」とあった。

 救世軍の木藤大尉と云うのは一向知らない人なので、神戸牧師は暫く名刺を見詰めていたが、支倉の事に就てと云われると、会わない訳にも行かないので、兎に角通すように妻に命じた。
 この木藤と云う人は後に分ったのであるが、廃娼運動の急先鋒で、遊廓で廃娼演説をやったり、娼妓の自由廃業を援助したりして、楼主側から非常な圧迫を受けた。然し毫も屈しないで運動を続け、或時は暴力団に包囲されて、鉄拳で乱打されたり、時には無頼漢に匕首《あいくち》を擬して追われたりした、真に死生の間を潜り抜けた勇烈の士だった。
 彼はずんぐりした短躯で、見るから頑丈そうな、士官の制服が窮屈そうに見える人だった。
「やあ、初めまして」
 木藤は座に着くが早いか、元気よく挨拶をした。
「初めまして」
 神戸牧師は丁寧に礼をした。
「中々暑うございますねえ、先生の方の御仕事はいかゞですか。我々の方はこう暑いと骨が折れますよ」
「そうでしょう。あなた方のお仕事は大変でしょう。我々の方は仕事と云っても別に変った事はありません。お恥かしい位です」
 牧師は謙遜した。
「いや、我々の方も一向駄目で
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