て重禁錮三月半を科せられ、三犯は三十九年奈良地方裁判所で、相変らず窃盗罪で重禁錮六ヵ月、四犯は四十年矢張窃盗で京都地方裁判所で重禁錮二年を申渡されているが、何故か京都の裁判所では之を一犯としている。之で見ると殆ど出獄するや否や次の罪を犯しているのだった。
次に聖書の窃盗につき予審判事が訊問すると、彼は聖書を私《ひそか》に会社から盗出した事実は肯定したが、書記と黙契があったので必ずしも窃盗ではないと申立てた。次に放火の審理に移ったが、彼は尽く事実を肯定した。
問 大正三年十月四日午前四時頃其空家に火を放《つ》けたか。
答 私は放けません。私が名前の分らぬ土工に頼んで放けさせました。其附近の開懇土地に入り込んで居た山谷《さんや》部屋の土工だった三十位の男に頼んだので、放ける三、四日前に頼みました。
問 放ける方法を教えたか。
答 教えません。空家に火をつけて呉れないか。火事になって俺の家が焼ければ保険金が取れて都合が好いのだと話しました。其の土工の放けるのは見ません。
問 火事になった時に分ったか。
答 私は家内と二階に寝て火の燃え上るのを知らずに居りましたが、隣の莫大小《メリヤス》屋の職人が門か垣根を打破って、私等を起して救い出して呉れたので、朝の四時か五時頃でした。
問 如何なる方法で火を放けたか。
答 知りません。私の処に揮発油はありましたが、自分が放けたのではなく、揮発油を使ったか否か知りません。
問 幾何《いくら》燃えたか。
答 私所有の一軒は全部燃えました。
問 保険金を受取ったか。
答 千八百円許り受取りました。
放火の件が終ると訊問は一転して貞殺害の事に及んだ。劈頭《へきとう》彼は強姦の事実を否定して、犯した事は犯したが暴力は用いないと云った。
問 被告は人を頼んで示談をしたか。
答 神戸《かんべ》牧師を頼んで何も云わぬと云う事で百円遣り示談にいたしました。神戸の手へ金を渡した月日を覚えません。
問 然るに被告は貞子を殺す決心をしたか。
答 咄嗟の場合に殺す決心をしました。金百円を渡したものの未だ淋疾に罹って居りましたから病院に入院させる積りでしたが、能く考えると自然自分の不始末が分ると思い、病院へ行かず新宿へ連れそれから用達を致し、新宿より山の手線の電車に乗り、目黒駅に下車し、自宅へ帰る途中、私宅より三町程離れた野原
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