為に罪のない女房まで痛い目を見ているではないか」
「え、女房が調べられているって」
支倉はギクリとした。
「そうさ。罪もない細君は三日三晩続けざまに調べられているんだ」
石子は態《わざ》と、誇張して脅かしつけようとして、嘲けるように云った。
「そりゃひどい。女房が何を知るものか」
支倉は苦悶の色を隠そうとしながら云った。
「知ってるか知らないか調べているのだ」
石子は支倉がひるむ色を見せたので、嵩《かさ》にかゝって云ったが、支倉はまたプッツリと黙り込んで終った。
刑事部屋の三尺の戸がガラリと開いた。
現われたのは大島主任と根岸刑事である。
「未だ白状しないか。よし俺達が調べよう」
よし俺が調べようと云って出て来た主任の顔を見ると、石子は驚いたように叫んだ。
「あっ、主任、ひどく顔色が悪いじゃありませんか」
「うん」
主任は眉をひそめながら答えた。
「少し気分が悪いのだ」
大島主任の顔色は真蒼だった。見かけはでっぷりして丈夫そうな身体だったが、彼は性得《しょうとく》心臓が弱かったので、余り興奮したり、調べ物に身を入れたりすると、よく脳貧血を起すのだった。
「私達は未だ疲れやしませんから暫くお休みになったらどうですか」
渡辺刑事は心配そうに云った。
刑事達が調べ疲れると新手と入れ交ると見える。調べられる支倉はいつまでも休息を与えられないのだとすると、いかに頑健な彼でも、遂には反抗の力が尽きる時が来るだろうと思われる。
「いや、何でもない」
主任はきっぱり云った。
「僕は支倉が自白をする迄はとても休息などしていられないのだ」
「僕も随分留めたのだがね」
根岸刑事が云った。
「主任がどうしても聞かないのだ」
「そうですか、ではお願いする事にしましょう」
石子はそう云って渡辺刑事と共に部屋を出て行った。
「支倉」
主任はじっと彼を見詰めながら云った。
「お前は未だ小林貞の居場所を白状しないのかい」
「知らぬ事はいくら問われても答える事が出来ぬ」
支倉はいま/\しそうに答えた。
「そうか、よし、そんなら女の居所を俺が教えてやるッ」
主任は怒号した。
「えっ」
支倉はあきれたような表情で主任の顔を見上げた。
「小林貞は大崎の古井戸の中にいるのだッ」
「え、え」
支倉は飛上った。
「お前は警察が何にも知らぬと思っているのかッ」
主任が大崎の
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