い」
「よく告白しました。あなたはきっと救われると思います」
「有難うございます。先生、私の浅間しい所業は罰せられずには置かなかったのです。女房にも女の親にも知られて終いました。女の叔父と云うのが手のつけられない無頼漢なのです。私は絶えず脅迫されるのです」
神戸氏は鳥渡|誑《たぶらか》されたような気がした。彼は支倉のしょげ切った姿から眼を離して、庭前をチラリと見やった。夕闇に丁字の花が白く浮んでいた。
支倉はさっきから真摯な態度で彼の罪を告白していた、と神戸氏は思っていたが、今聞くと彼は女中の伯父から脅迫される事を恐れて、自分の所へ縋りに来たとも思える。彼の流していたのは必ずしも悔悟の涙でなくて、救いを求めに来たのは彼の霊でなくて、肉体であったかも知れない。
「先生」
支倉は黙り込んだ牧師を不安そうに見上げながら、
「私は心から悔悟しているのです。どうか救って下さい」
支倉の悔悟は偽りか。この瞬間に於ける彼の至情は、よしそれが神の罰を恐れる為でなく、無頼漢の脅迫を恐れる為であったとしても、正に悔悟と認めて好い。彼のこの告白に対して石を投げて責め得る人は恐らくないであろう。神戸牧師は居住いを正した。
「で、私はどうすれば好いのですか」
「叔父との間を調停して頂きたいのです」
支倉はホッとしながら答えた。
「無論私は再びこんな誤ちを犯さない事を誓います」
「その叔父とか云うのとはどう云う話になっているのです」
「たゞもう姪を元の通りの身体《からだ》にして帰せと云って喚き立てる許りなのです」
「そうですか」
神戸氏は暫く考えていたが、
「私はこんな問題に触れるのは好みませんが、折角のお頼みですから、兎に角その叔父と云うのに一度会って見ましょう。所で父親の方はどうなのですか」
「無論立腹しているには違いないのですが、父の方は別に直接には何とも云わないのです」
「父親の方は私も一度位会った事があるかと思っています。父親をさし置いて叔父の方がそう喧しく云う事もないでしょう。兎に角私から穏かに話して見ましょう」
神戸牧師の情ある言葉に支倉は度々頭を下げて礼を述べて帰って行った。
それから神戸氏はいろ/\尽力して、漸くの事で女中の貞は親許に引取り、支倉は慰藉料として二百円、外に女の病気が治るまで病院に通わせ、その治療代を負担すると云う条件で一先ず型がついたのだった
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