凄い眼を向けたが、そのまゝ黙り込んで了った。
主任は暫く支倉を睨みつけていたが、やがて刑事達を従えて足音荒く部屋に引上げた。
「ちょっ人騒がせな奴だ」
主任は未だプン/\していた。
「主任、直ぐ引出して来て、とっちめてやろうじゃありませんか」
石子も興奮しながら云った。
「それが好い、よし俺が引出して来てやろう」
気の早い渡辺刑事は立ち上って出て行こうとした。
「おい/\、そうあわてるな」
根岸刑事は出て行こうとした渡辺を呼び留めた。
「いくら何でも今調べるのは可哀想だ。それに今聞いたって云う気遣いはないよ。今晩一晩位は独房に置いとくのが好いのだ。どんな強情な奴でも、一人置かれるといろ/\と考えて心細くなるから、素直に云うものだよ」
「それは対手《あいて》に依るよ」
渡辺は渋々席につきながら、
「あいつにはそんな生優しい事では行かないよ」
「まあ、行くか行かぬかそっとして置くさ。それよりね、主任」
根岸は大島の方を見て、
「女房を一度喚んで調べましょうや、何か知っているかも知れませんぜ」
「うむ、そうだ。そうしよう」
主任はうなずいた。
支倉の妻の静子は根岸刑事の献策によって警察に出頭を命ぜられて、取調を受ける事になった。
それより前に石子刑事は取敢ず芝今里町の神戸《かんべ》牧師を訪ねたのだった。
神戸牧師と云うのは当時三十五、六、漸く円熟境に這入ろうとする年配で、外国仕込の瀟洒たる宗教家だった。支倉の妻が日曜学校の教師などをして、同派に属している関係から知合となり、妻の縁で支倉も続いて出入するようになり、小林貞を支倉の家に預けるようにしたのも、彼が口を利いたのだった。そんな関係で支倉は神戸牧師に師事をしていたのだった。
石子刑事が名刺を通じると直ぐに二階の一室に通された。
白皙な顔に稍厚ぽったい唇をきっと結んで現われた牧師は、石子にちょっと会釈して座につくと不興気に云った。
「何か御用事ですか」
「はあ、鳥渡支倉の事についてお伺いしたい事があるのです」
石子は畏まって云った。
「支倉? はゝあ、どんな事ですか」
「実は支倉はある嫌疑で神楽坂署に留置してあるのです」
「支倉が」
神戸牧師は鳥渡驚いたようだったが、直ぐ平然として、
「はゝあ、どう云う嫌疑ですか」
「それはいろ/\の嫌疑で鳥渡こゝでは申上げられないのですが、それにつきまし
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