。
「たしかに昨日掘った辺りだと思いますがね」
人夫は皺だらけの渋紙のような顔に困惑の色を浮べながら、
「事によるともう少し左寄りだったかも知れません。ようがす。もう一度掘り返しましょう」
そう云って人夫は墓地の中程に進んで、昨日掘り返した跡のすぐ隣の地点を指し示した。
「今度はこの辺を掘って見ましょう」
人夫の後に従った石子刑事は少し遅れて大股に歩んで来る署長の方に振り向いた。
「こゝをもう一度掘らして見ます」
「宜かろう」
署長は大きくうなずいた。
はっしと許《ばか》りに人夫はショベルを軟かい赤土に突込んだ。
周囲に立った署長初め三、四の警官は黙って人夫の手の動くのを見守っていた。
穴は次第に大きく開いた。
ショベルから勢いよく一塊りの赤黒い土が投げ出されると、バラ/\と細かい黄ろぽい土塊が代りに穴の中へ転げ込んだりした。
やがて穴の底には昨日のように白骨の一部が現われ出た。石子刑事は息を殺して白骨が次第にその全部を現わして来るのを見つめていた。
掘り出された白骨は殆ど完全に骨ばかりになっていた。棺も着衣も腐朽して殆ど痕跡を止めない程だった。只屍体の背部の恰度屍体の下敷になっていたと思われる部分に、少しばかりボロボロになった布片が残っていた。
石子刑事は注意深くその布片を地上に拡げて見た。布片は二重になっていて、下敷になっているのは帯の一部らしく、上側のは着物の一部らしかった。帯と思われるものは黒ぽい色で、割に幅の広いものゝ一部と思われた。石子刑事は見る/\喜色を現わして、不安そうに白骨を眺めている大島主任を呼びかけた。
「司法主任殿、之は女帯の一部らしいですよ」
「成程、君の云う通りらしいね」
司法主任はじっと布片を眺めながら、
「こっちの方は着物らしいが、色がすっかり褪せて終《しま》ってよくは分らないけれども、何か模様があるようだね」
「地もメリンスらしいじゃありませんか」
「うん、どうもそうらしい」
「そうすると」
石子刑事はいよ/\面を輝かしながら、
「服装の点が問題の死体に一致します。おい、君」
彼は人夫の方を振り向いて、
「女は模様のあるメリンスの着物に黒い繻子の帯をしめていたと云ったね」
「えゝ、そうです」
人夫はうなずいた。
「それが恰度小林貞の家出当時の服装に一致するのです」
石子は主任に向って云った。
「じゃ」
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