この屍体を平気で見に行って、誰も彼の家の女中である事に気がつかない事を確めているのではないか。
 それを埋葬後三年を経過して、すっかり白骨に化している屍体をどうして、どこの何者と確定する事が出来るだろうか。
 鑑識課に白骨を置くと石子刑事は鑑識がすむまで残る事にして、他の一行は再び自動車を駆って一先ず帰署する事になった。
 庄司署長は結果いかにと待受けていた。
「どうだ、旨く掘り当てたかね」
 彼は大島主任の顔を見ると直ぐに声をかけた。
「はい、人夫の指定した所に丁度旨く可成り長く埋まっていたらしい白骨がありました」
「そうか、それで鑑識課の方へ廻したのだね」
「はい」
「旨く鑑定が出来るか知らん」
「大丈夫だろうと思います。小林貞の骨格の特徴などが相当分って居りますし、着衣の一部なども手に入れる事が出来ましたから」
「そうか」
 署長は暫く考えていたが、
「支倉の逮捕は一体どうなったのだ。一向|捗《はかど》らんじゃないか」
「申訳ありませんです」
 主任は頭を下げながら、
「根岸が例の浅田と云う写真師を召喚して取調べて居りますから、遠からず、彼の潜伏場所が判明するだろうと思います」
「浅田と云う奴は中々食えぬ奴らしいが、根岸で旨く行くかね」
「根岸なら心配はないと思いますが、場合によっては私が調べます。署長殿を煩わす程の事はないと存じます」
「君がそう云うなら暫く根岸に委せて置くとしよう。で、鑑識の結果はいつ分るのだね」
「石子が残っていますから判明次第帰署して報告する事になっています」
 折柄|扉《ドア》をコツ/\叩く者があった。
 大島主任が立上って扉を開くと恰《まる》で死人のように蒼ざめた顔をした石子刑事がヨロ/\と這入って来た。
「ど、どうしたんだ君」
 大島主任は驚いて声を上げた。
「署長」
 石子刑事は苦しそうに喘ぎながら、振り絞ったような声を上げた。
「私はじ、辞職いたします」
「どうしたんだ」
 署長は不審そうに彼の顔を眺めながら、
「しっかりしろ、突然辞職するったって訳が分らないじゃないか。訳を云って見給え」
「屍体が違ったのです。全然違うのです」
「えっ」
 署長と主任は同時に驚駭《きょうがい》の声を上げた。
「全然違うのです。今朝掘り出したのは老人の屍体なのです」
 石子刑事は悲痛な表情を浮べて口籠りながら云った。
 署長と主任は思わず顔を見
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