の最後の足掻《あがき》の「サイアク・オククウ」と云う言葉、等々からして、星田が山川某と同一人である事は動かし難いとしても、宮部京子の殺人犯人ではあり得ないような気がするのだ。津村は例の脅迫状や、博覧会場での奇怪な出来事を、村井の所為《せい》じゃないかとさえ疑った事があるのだ。
 さて、津村と村井の二人は互に白けた顔をして、ものの三十秒も睨み合っていたが、やがて両方から同時に口を切った。
「如月に会いに来たのか」
「如月に用があるんだな」
 そうして、二人は再び無言になって、云い合したように、アパートの中に這入り真弓の部屋の扉《ドア》を叩いた。二人は互に相手が洋装の女の秘密を悟った事を知り、互に最早相手を撒く事が出来ない事を観念したのだ。
 激しいノックの音に、中では返事する代りに、扉がグッと開かれた。
 果して、そこには例の洋装の女がいた!
 如月真弓は津村と村井の顔を見ると、見る見る、色蒼ざめて、ワナワナと顫《ふる》え出した。そうして、口の中で、
「アア、とうとう――」と呟いた。
 津村と村井とは、互に後れるのを恐れるように、犇《ひし》めきながら部屋の中に這入って、扉をピッタリと閉め
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