さんの指紋です」
「え、え」
「浦部の家に残してあった山川牧太郎の指紋は、実は星田さんの指紋です。本当の山川牧太郎は指紋を残すような生優しい人間ではありません」
「然《しか》し――」
「お聞きなさい。星田さんは浦部の家に出入するのに、山川牧太郎と云う名を使っていたのです」
「?――」
「星田さんが山川牧太郎と云う名を使ったのは、本当の山川牧太郎の勧めによったのです。当時星田さんは姉の俊子と恋仲でした。然し、金より他に貴いものを知らない父は、貧乏な星田さんを好みません。そこで胸に一物ある山川牧太郎は、星田さんに彼の名を使う事を許したのです。と云うのは、山川は姉に恋していました。イヤ、父の財産に恋していたのかも知れません。すると、ここに山川牧太郎の悪企みを助ける者が現われました。それは宮部京子さんです。京子さんは星田さんに恋をしていました。姉に恋した牧太郎と、星田さんに恋した京子さんとが、星田さんと、姉の仲を裂こうとする企みに、直ぐ同盟したのは当然の事です」
「彼等は間もなく成功しました。星田さんはすっかり京子さんに籠絡されました。星田さんは姉を棄てて京子さんと手を取って駈け落ちをしました
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