殺人迷路
(連作探偵小説第十回)
甲賀三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)卓子《テーブル》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私|生命《いのち》は
[#]:入力者注 主に外字の注記や傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「探偵クラブ」一九三二年四月〜一九三三年四月)
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親友? 仇敵?
疑問の洋装の女が、三映キネマの如月真弓!
寺尾に示されたスチールで、それを発見した津村は唸った。
雑誌記者津村がこの発見をした時と殆ど同時に、新聞記者村井は二木検事に、洋装の女が投身自殺を遂げた浦部俊子の妹らしいと云う推測を告げていた事を、読者諸君は承知せられている筈だ。
以上の二つの事実によって、津村と村井がバッタリと、如月真弓のアパートの入口で、顔を合したのは、決して偶然でない事を、読者諸君はうなずかれるであろう。
両者は無言のまま、相手を探るようにして、いや、むしろ敵意を持って、じっと睨み合ったと云う方がいいだろう。
二人は事件の日以来会っていないのだ。事件のあった日の前までは、二人は親しい友人だった。記憶のいい読者諸君はこの物語の冒頭で、探偵作家の星田と津村と村井とが、仲良く呑み合い、論じ合っていた事を思い出されるだろう。そうして、その時に、彼等の卓子《テーブル》の斜かいになった向うの卓子に、眼つきの怪しい三十五六の赭《あか》ら顔の紳士と、洋装の女と、それから植木の蔭になって見えなかった所の宮部京子の三人がいたのだ。その時に星田の滑らした完全犯罪《パーフェクト・クライム》の有無と云う言葉が怪事件の導火線をなして、宮部京子の殺害死体が鎌倉の空家に発見されて、その犯人として星田は検挙されたのだ。
津村と村井、彼等は親友同志であったけれども、星田に対する考えは恰《まる》で違っていた。村井は既に久しい以前から、星田を浦部伝右衛門から五万円の金を騙《かた》り、その後に彼の娘俊子は投身自殺し、伝右衛門自身は発狂するに至った、実は山川牧太郎と云う悪漢だと深く疑っていたのだ。(そうして、それが指紋によって、はっきり証拠立てられた事は、既に読者諸君の知られる通りである。)が、津村はむしろ星田の同情者だった。彼は星田が犯行現場での狼狽《ろうばい》ぶり、その後で彼への悲痛な告白、あづま日報社の編輯局から漏れ聞いた、星田の最後の足掻《あがき》の「サイアク・オククウ」と云う言葉、等々からして、星田が山川某と同一人である事は動かし難いとしても、宮部京子の殺人犯人ではあり得ないような気がするのだ。津村は例の脅迫状や、博覧会場での奇怪な出来事を、村井の所為《せい》じゃないかとさえ疑った事があるのだ。
さて、津村と村井の二人は互に白けた顔をして、ものの三十秒も睨み合っていたが、やがて両方から同時に口を切った。
「如月に会いに来たのか」
「如月に用があるんだな」
そうして、二人は再び無言になって、云い合したように、アパートの中に這入り真弓の部屋の扉《ドア》を叩いた。二人は互に相手が洋装の女の秘密を悟った事を知り、互に最早相手を撒く事が出来ない事を観念したのだ。
激しいノックの音に、中では返事する代りに、扉がグッと開かれた。
果して、そこには例の洋装の女がいた!
如月真弓は津村と村井の顔を見ると、見る見る、色蒼ざめて、ワナワナと顫《ふる》え出した。そうして、口の中で、
「アア、とうとう――」と呟いた。
津村と村井とは、互に後れるのを恐れるように、犇《ひし》めきながら部屋の中に這入って、扉をピッタリと閉めた。
真先に口を切ったのは村井だった。
「如月さん、真弓さん、知っている事をすっかり話して下さい」
津村は続いて、
「如月さん、あなたは宮部京子を殺した男を知っているでしょう」
「ああ、あたし――」
真弓は両手で顔を伏せた。そうして、フラフラと倒れようとして、辛うじて床に蹲《うずく》まりながら、
「可哀そうな姉」と云って、忽《たちま》ち激しい啜《すす》り泣きを始めた。村井はうなずいて、
「ああ、やっぱり、あなたは俊子さんの仇《あだ》を打ったのですね」
「え、え」津村は驚いて、「俊子とは、じゃ、真弓さんは」
「なくなった浦部俊子の妹さんさ。君はそれを知らなかったのかい」
「知らなかった。俊子さんの妹?」
津村は改めて真弓の姿を見守った。
村井はやや得意そうに、
「僕の推測は誤らなかった。真弓さんは姉さんの復讐をしたんだよ」
と、突然、真弓は顔を上げた。
「違います、違います。私は姉の仇を討とうと思って、そ、それが出来なかったんです」
甲高《かんだか》い声でこう叫ぶと、彼女は再び激しい泣きじゃくりを始めた。
恐ろしい男
津村と村井はちょっと顔を見合したが、直ぐに右
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