のさえ恐ろしいと云う風にブルッと顫えながら、
「京子さんと恐ろしい男と私と三人で、お酒を呑んでいたんです。そうしたら京子さんが急に顔色が紙のように白くなって、気持が悪いと云ったかと思うと、パッタリと斃《たお》れてしまったのです」
「ふむ。それから」
「私、びっくりして、キャッと声を揚げたんです。そうしたら、恐ろしい男は怖い顔をして私を睨んで、騒ぐと為にならないぞ。もし密告でもしたら、お前も同罪になるぞと云うんです」
「ふむ。それで」
「私は云いなりになるより他はなかったのです。恐ろしい男は私に手伝わして、死体を自動車に乗せて、自分で運転して鎌倉に運びました」
聞いているうちに、津村は頭がグラグラとして、あたりが暗くなるように感じた。
ああ、宮部京子を殺したのは、やはり星田だったのだ。彼は居合した京子の妹女優真弓を威かして、死体の遺棄を手伝わしたのだ。
津村に反して、村井は勢いを得ながら、
「じゃ、我々を博覧会場に誘《おび》き出して、更に鎌倉に行かせたのも、みんなその恐ろしい男の策略ですね」
「ええ」
「あなたもその手伝いをしたんですね。そんな事だろうと思った。ちょッ、星田の奴、自分で狂言を書いて、誠しやかに僕達に話しやがった。自作自演と云うやつだ。畜生!」
「ちょ、ちょっと待って呉れ給え」津村は漸《ようや》くの事で口を出した。「星田が京子を毒殺して死体を鎌倉に運んだと云う事は、最早疑う余地はない。考えて見ると、脅迫状云々も彼のトリックだし、博覧会場へ僕達を誘き出したのも彼に違いあるまい。だが、あの時に真弓さんと自動車に同乗して、東京駅に行った男は一体何者だ。いくらなんでも、あの男は星田じゃないぜ。あの時に星田は僕達の車にちゃんと乗っていたんだから」
「そうだ。真弓さん、あの男は何者ですか。そうして、あの時に二軒ばかり店屋に寄ったのは何の為でしたか」
「あの時には何の為だか分りませんでした。私は只恐ろしい男の命令で、云うままの事をしたのに過ぎません。でも、後で考えて見ますと、銃砲店や、医療機械店で受取ったものは、みんな殺人の証拠品に違いありません」
「え、殺人の証拠品!」
「ええ、私はアノ恐ろしい男のやり方はよく知っています。アノ男は自分の身体につけたり、家に置いとくと危険だと思うものは、方々の店でちょっとした買物をして、その時に、直ぐ貰いに来るからと言って、紙
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